第5章 転換期
第10話 心のドア
発表を見る経営者や人事担当がぞくぞくと会場に集まってきた。
ところ狭しに並べてあるパイプ椅子に座ると最後の研修が始まった。
委員会を代表して各委員長が発表を行うというものだった。
書記委員の発表が終わり、最後は挨拶委員会の番になった。
感動の舩越の番だ。
松田は心なしか誇らしげな表情だった。
「うちのキャストが委員長にチャレンジしてくれて本当に嬉しい。」
嬉しさがこみ上げ、目元が緩んでいた。
「ハイ!」
と大きな返事をすると、
舩越は副委員長と共に壇上に上がった。
そこで大きく深呼吸し、挨拶を始めた。
「あ・い・さ・つ・い・い・ん!!ぜーいんしゅーごー!!!」
「!!!!!!?」
何を考えたか、舩越は委員全員を壇上へ呼んだ。
それに応えるように20名ほどが壇上に上がった。
松田と元田は顔を見合わせた。
二人の心はざわついていた。
「やばいな。」
「やばいですね・・・・・・」
「ゴクリ」
声には出なかったが、松田は心で舩越に問いかけていた。
研修でまさか? サプライズ?!
どうする?
どうすることもできないよな。
舩越は続けた。
「挨拶委員会として、最後のお礼を伝えます。
この研修に送り出して下さった
会社の皆様
社長の皆様
本当にありがとうございます。
気をつけ!!」
壇上の全員が姿勢を整えた
「せーの!」
「ありがとうございますっ!!」
会場がこだました。
学生は全員深く長く頭を下げた。
会場は音もなく張りつめた。
パチッ
パチ・・・
パチパチ・・・
パチパチパチパチパチパチ!!!!!
気が付けば松田も元田も大きな拍手を送っていた。
「すごいな。元田君」
「いやー、すごいっスね。」
「あとで叱ってやらんといけんな。」
とは言え、気持ちをまっすぐ伝える事、感謝を伝えることの大切さを改めて知ることとなった。
研修も終わり、皆が集まってくる。
「社長、お疲れさまでーす!」
舩越は松田の心配をよそに明るく駆け寄ってきた。
「いやー、良かったよ。感動したよ。」
心から出た本心である。
ミドルネーム 感動の舩越
2015年1月現在
入社以来、無遅刻無欠勤。
その後契約頂いたお客様は1,000人を超える。
家主様、業者様、お客様に愛されているキャストの1人だ。
心のドアを開く達人でもある。
今日もお客様に喜んでもらっている。
2014/12/20 14:26