【番外】快晴の中本
第3話 負けず嫌い
規格外の新人「中本亘」には同期が3名いた。
中本は自他ともに認める「負けず嫌い」だ。
同期の誰よりも早く営業に出て
成績でも負けたくないと思っていた。
そして、
なによりも初日の失態を挽回したい気持ちでいっぱいだった。
そんな新人4名に店長の松田が声をかける。
「物件情報を知らずしてサービスを語るな!」
「今日から毎日物件情報を覚えること!
それが君たちの仕事だ!」
新人「はい!」
「あと、当たり前だが覚えるまで帰れると思うなよ。」
新人「・・・は、はい!」
一日で覚える物件情報はときに100件を超えるのだが
新人4名は指示されるがまま、
各々に物件資料と地図を手に外に飛び出して行った。
皆、思い思いに物件を巡りメモをとっていく。
夕刻・・・
全員、街中を自転車で走り回ったおかげで
足はパンパンでクタクタだ。
しかし、休んでいる余裕はない。
事務所に戻って来るなり
情報を正確に覚えているかテストがあるのだ。
回答内容に松田が納得すれば帰宅許可がでる!
最初に回答用紙を提出したのは新卒で入社した女性社員だ!
答えをチェックする松田の顔を不安げに覗き込む女性社員。
「よし。合格!よく頑張ったな。」
「明日も宜しくお願いします!」と
女性社員は笑顔で帰宅準備に取り掛かった。
一人、また一人、回答を提出した順に帰宅許可が出る。
そして、最後に残ったのは汚名返上に燃えていた中本だ。
「おい、回答はまだか?」松田の問いかけに
「すみません。もう少し待ってもらえませんか・・・。」
申し訳無さそうに中本は答えた。
そして、先輩社員達も退社し始め、
松田も今晩は予定があったので退社準備に取り掛かっていた。
(そろそろ出ないと
友人との約束に間に合いそうもないのだが・・。)
松田はそっと中本の回答用紙を覗き込む。
・・・半分も埋まっていない。
(なかなかの覚えの悪さだ・・。)
その回答用紙を見た松田は友人に断りと謝罪の連絡を入れ、
中本に声をかけた。
「最後まで付き合ってやるから、やりきって帰るぞ!」
「えっ・・。ありがとうございます。」
正直、中本は営業とは商品知識が無くとも
元気と想いがあれば何とかなると考えていた。
その松田の好意を中本は少しだけありがた迷惑に感じていた。
そんな感じなので案の定、毎日最後に残るのは中本。
それに付き合う松田。
松田と中本が夜遅くまで事務所に残り、
覚えの悪さから時になげやりになる中本を
松田が叱咤する姿がいつしか当たり前になっていった。
そんな松田の粘り強い指導のもと
中本は人よりも時間は掛かったが
物件を全て覚えることができた。
それから中本は豊富な商品知識と持ち前の元気さを武器に
営業でトップの成績を残すまで成長した。
それから十数年、中本が松田に愚痴をこぼした。
「最近の若い社員は物件に興味が無いんですかね。
全然、商品を覚えていないんですよ。」
(!!!。・・・・君が言うか。)
松田は心の中でつっ込んだ。
2013/12/13 14:00