第4章 決意
第8話 ミドルネーム
2005年4月
松田は中区十日市町に4店舗目を出店した。
路面電車沿いの良い店舗だ。
部屋店の創立メンバーは
十日市町周辺の家主様との繋がりも深くすぐに商品も揃った。
店長の元田は元々中区に強く
、
営業の大久保も好調だ。
出だしとしたらまずまずの結果だった。
しかし、一人浮かばない人間がいた
社長になるのが夢の岩崎だ。
入社半年近くになるが思うような成果が出ない。
7ヶ月目でとうとう契約が0になった。
さすがに普段は温厚な元田も鬼の形相だ。
とても目を合わせられない。
ただ、元田もどうしたら
岩崎がお客様に認めてもらえるのか考えあぐねていた。
そんなある日、
一本の電話が鳴る。
「お電話ありがとうございます。
部屋店 元田でございます!」
「あの~、・・・
先日伺った者ですが
そちらに大きな人はいますか?」
「??大きな人ですか?
わたくし元田でしょうか?それとも岩崎でしょうか?」
元田も岩崎も180センチを越える背丈なので
電話を受けた元田は尋ねた。
「ん~元田さんでは無いと思います。」
岩崎宛の電話だった。
翌日また電話がかかる。
「先日伺った者ですが担当の、
あの、大きな男性はいらっしゃいますか?」
また電話が鳴る。
「大きい人お願いします」
これで何度目か。。。。
元田は同じ内容の電話を何回か受けたあと頭を悩ませていた。
担当営業マンなのに、
お客様に名前すら覚えて頂けていない。
こんなんじゃあご契約を頂ける訳がない。
名前も覚えてもらえないのに、どうやったら・・・
元田は閃いた!
大きいことが取り得ならば この際、
名刺も大きくしよう!!
A4サイズにしてしまえ!!
名前を覚えてもらえないならば
「大きい」
そのものを名前にしてしまおう!
そのほうがインパクトがある!
これが元田が考えた
半分冗談で半分本気の
岩崎社員売り込み計画だった。
そして、後に部屋店全社員が付ける
ミドルネームの誕生の瞬間でもあった。
早速、元田はA4サイズの紙で名刺を作成し岩崎に渡した。
「今日からこれをお客様にお渡しするように」
そこには「岩崎孝則」では無く
「大きな岩崎」と書いてある。
岩崎は内心恥ずかしかったが、逆らえるはずもなく
会うお客様全員に特大サイズの名刺を配っていった。
そして数日して電話が鳴る。
「お電話ありがとうございます。部屋店 元田でございます!」
「あの~先日お伺いした者ですが
大きな岩崎さんいらっしゃいますか?」
電話を受けた元田の顔がニヤける。
「大きい人」から
「大きな岩崎さん」になった
とうとうお客様に名前を覚えていただけたのだった!
2013/03/19 16:14