第4章 決意
第2話 面接
今は各部署が設立されているが、
当時は経営、運営、人事、全てを松田が担っていた。
新卒採用を決めてから各学校への働きかけが加わり、
松田は多忙を極めた。
そんなある日、事務所に戻るなり松田は木下に声をかけた。
「今年の採用面接は木下君がやってくれるか?」
人事に携わったことのない木下は一瞬返事に迷ったが
松田がよく言う
「出来る仕事しか目の前に来ない。」
その言葉を思い出し、初めての仕事ではあったが快諾した。
数日後、
早速一人の女子学生が書類選考を経て面接のため部屋店に訪れた。
それは、木下にとって面接官としてのデビューの訪れでもあった。
「よし!」
面接室へ向かう廊下で木下は一人気合いをいれた。
「こんにちは!」
面接室の扉を開けると同時に元気良く挨拶をした。
緊張の面立ちで女子学生が席についていた。
緊張感の中では、その人の本質はわからない。
不動産の仕事が、部屋店が、どれだけ魅力的なのか。
そしてどれだけ好きか。木下は一生懸命に説明した。
結果、
和気あいあいとした雰囲気の中で面接は続き、
あっという間に予定の1時間を30分もオーバーして
面接は終了した。
木下と女子学生はお互いに笑顔で別れ、
それを見届けた松田が木下に声をかける。
「で、どんな人材だった?
あの子の志望動機や夢などを報告して欲しい。」
「あっ・・・」
木下は罰が悪そうに続けて言う。
「話すのに一生懸命で聞いていませんでした。」
木下は部屋店の魅力を伝えることに熱中し過ぎて
面接ではなく会社説明を一時間以上かけて行っていたのだった。
後日、面接(会社説明)を受けた影山は言う。
「木下常務が熱く、そして楽しそうに会社のこと、仕事のことを
お話ししてくださったので 部屋店に入社したい。
という気持ちが固まりました。」
と、一応のフォローは入ったのだが、
翌年度より人事担当者は変更となり、
木下に依頼がくることは無かった。
しかし、
この年に入社した新卒者は順調に成長し、
影山は「店舗売上レコードを更新する店長」に
成長することとなる。
2012/11/24 11:31