第3章 船出
第2話 熱い缶コーヒー
2003年4月 某日
少しずつ暖かくなってきた。
桜も春を待っていたかのように少しずつ咲き始めている。
松田はいつもの駐車場に車を止めて本店に向かいながらこんな事を考えていた。
初めての商戦は想像以上の結果を残した。
本店は目標の100契約を達成。
念願であった2店舗目の中央南支店も、目標の契約件数を達成した。
とは言え、
中央南支店の出店費用を筆頭に、社員の人件費、店舗の賃料、備品購入費、などなど
経費が減る事はない。
中央南支店の出店時に
必要な棚などは、夜な夜な作り上げたほどだ。
その状況下でも会社の成長も考えていた。
来年も出店する計画も練っている。
考え事が多いせいか駐車場からの距離はいつもより短く感じた。
夏でも冬でもコーヒーはHOTと決めている松田は自動販売機で
190グラムの熱い缶コーヒーを買い、ポケットにしまった。
店内に入ると古賀・木下・黒瀬が松田に挨拶する。
いつもなら「おはよう」と言葉を残し3階に行くが、今日は足を止めた。
松田が漏らした言葉、それは、
「社員、足らなくないか?」
皆、薄々気づいてはいたのだろう。
「やっぱりそうですよね?」
「この忙しさ、人手がほしいですよ」
と次々に声が上がった。
当然といえば当然である。
2店舗目を出店したが、社員は一人も増えていない。
みんな風邪をひいても何事もないかのように仕事をする、
体力的にも精神的にもとても強い男たちではあった。
しかし今後の展開を考えるとこの人数では限界がある。
口にはしたくないが、事故や病気で長期間休むことだって考えられる。
ひとつの答えを出した。
「新入社員を採用する」
そうと決まったらすぐ行動するのが部屋店流。
真っ先に求人雑誌やWEBといった媒体を使う事を思いついた。
だが、この方法はすぐに頭から消去された。
理由はただ一つ、お金がかかるからだ。
数十万という費用はどうやっても捻出できない。
「お金をかけずに採用活動を展開する」
難題だ。
頭を振ってもいい案は出てこない。
一度、その事から離れて業務に就いた。
業務が終了した頃、一息つけようと熱い缶コーヒーのボタンを押した。
その時に「パッ」とある人物の顔が頭に浮かんだ。
「あの男しかいない」
松田は一目散に携帯電話を握り締めた。
2012/01/04 23:38